「ファルマコン連鎖/反応」(PCR展)の出品作家

展覧会の見どころ、出品作家
展覧会「ファルマコン 連鎖/反応」には、日仏より国際的に活躍するアーティスト11名が作品を発表します。この展覧会のための新作、コロナ禍の生活をつうじて生まれた作品、あたかもこの世界状況を予見していたかのような2019年以前制作の作品が、京都のギャラリー・アトリエみつしまに一挙に集う、みごたえたっぷりの展覧会です。
フランスからは、現状をシニカルなユーモアで表現するホルン奏者・ヌードモデルのエルイーズ・イルベール、暗室でご覧いただく注目の作品《chiasme》や巨大ドローイング《œ》を描いたフロリアン・ガデン、衛生概念をエコロジーの哲学で読み解くジェレミー・セガールが参加します。また、フランスを拠点に国際的に活躍しながら日本を見つめ直す古市牧子、命のメカニズムへの関心を独特な世界観で表現する福島陽子、そしてキュレータの大久保美紀が現状について再考します。
日本からは、消しゴムの消しカスから驚くべき細密彫刻を作り上げる入江早耶が必見の新作《青面金剛困籠奈ダスト》を発表します。また、磁性流体による彫刻で知られるメディアアーティストの児玉幸子が手がけたライトアート作品《雲の路》と色彩論の専門家・美術史家の加藤有希子による小説が共鳴します。気鋭の若手画家・谷原菜摘子がコロナ禍の生活を通じて描いたベルベット絵画《星を頂戴》とドローイング新作を発表、素材を探求し斬新な空間彫刻を試みてきた堀園実が新作の漆喰彫刻を発表します。

フロリアン・ガデン/Florian Gadenne
1986年生まれ、ナント美術大学大学院終了、パリ郊外在住美術家。2015年、「PARIS ARTISTES」入選。2018年、写真家松田有加里とのデュオ展「orbite elliptique」(滋賀、galleryサラ)。ファルマコン展には2017年から継続して参加。微生物叢と地球規模のミクロ・マクロの観点を行き来しながら、西欧中心的思考や人間の視点による偏ったエコロジーを批判し、アニミズムや錬金術の思想に影響を受けたコンセプトを展開する。新作の《oromitose》、《chiasme》および生命のダイアローグを描きこんだ巨大ドローイング《œ》を展示する。

chiasme, florian gadenne, 2020

oe, florian gadenne, 2019

oromitose, florian gadenne, 2020

古市牧子/Makiko Furuichi
1987年生まれ、美術家。フランス・ナント美術大学院終了、ナント市を拠点に国際的に活躍。「ブドウの時代」(L’Âge de Raison、カナダ、2019)、「ドリーム・ジャングル」(アミラルホテル、宿泊室全体をインスタレーション、ナント)、「KAKI Kukeko」(ファルクフー)、「手のひら泥棒」(WISH LESS gallery、東京)など個展多数。洗練された水彩画のテクニックと色彩で、独特な植物や人物を描く。ユーモアとシニカルな要素が混ざり合う表現は、絵画、彫刻、テキスタイル(コラボ)、ビデオ、インスタレーションと幅広い。在仏日本人としての視線から、日本社会を批判的に考察する作品も発表している。

Mains, Makiko Furuichi, 2020

堀園実/Sonomi Hori
1985年生まれ、沖縄県立芸術大学大学院終了、彫刻家。2016年、文化庁新栄芸術家海外研修制度によって、フランス・パリで研修滞在。主な展覧会に、「Emerging 2018 なみうちぎわの協和音」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、東京、2018)や「ファルマコン–医療とエコロジーのアートによる芸術的感化」(ターミナル京都、CAS、京都・大阪、2017)など。身近なものや風景の構成要素を粘土で型取り、彫刻として再現する。それらは現実の似姿でありながらある種のズレを表現し、その余白にあるものや歪みについて思索する。金属や漆喰、石膏など多様な素材を用いた表現に取り組む。

エロイーズ・イルベール/Héloïse Hilbert
音楽家・ヌードモデル・ドローイング作家。日本とは比べ物にならないコロナ感染者数と死者を出したフランスで「ソーシャル・ディスタンス」と同じくらい普及したコロナ禍の新用語・「ジェスト・バリエール」 (防御のためのジェスチャー)をテーマとした風刺ドローイングシリーズを発表する。「ジェスト・バリエール」は今や社会の常識となり、すべての人にそれに基づいて行動するよう強いる。マスク着用、1メートル以上の距離、逐一の消毒とそのためのジェルを常に携帯。一体どこまでそのジェスチャーは適応されるべきなのだろうか。家族、恋人、友人との人間関係は変容しただろうか。一方で、感染を食い止めるために一般化した新たな習慣は、またしても人間のエゴイスティックな態度を露呈することになった。厳重な小分け包装に使う大量のプラスチック、道のいたるところに見られるようになった使い捨てマスク…。楽譜の裏紙に描かれたドローイングは連日SNSに投稿されている。全てのドローイングに日本語訳付き。

©Heloise Hilbert, Dessins

ジェレミー・セガール/Jérémy Segard
1983年生まれ、フランス・ナント美術大学大学院終了、ナント在住、美術家。ナント建築大学講師。ナント市大学病院(CHU)にてレジデンスを行う。医療とエコロジーの芸術的アプローチについて思考するアートアソシエーションLOTOKORO主宰者。「ファルマコン」の概念を基盤とした研究・実践活動の主要メンバーである。2014年より、病院レジデンスを通じて、身体と環境のテーマに取り組む。緑化地区と衛生概念についての研究を続けており、最近は自ら購入した一区画を利用して実験的時制環境づくりを行う。

谷原菜摘子/Natsuko Tanihara
1989生まれ、画家。2015年、絹谷幸二賞。2016年、VOCA奨励賞。2017年、五島記念文化賞新人賞を受賞し、一年間フランス・パリで研修滞在。2018年、京都市芸術新人賞受賞、同年東京・MEMにて個展「まつろわぬもの」開催。国際的に活躍中の若手画家として着目される。黒や赤のベルベットに油彩・アクリルなど精巧なテクニックで描き、リアリスティックな表現で人々の日常や社会に対して違和感を喚起し、ジェンダー、心理の闇、ある種の夜会的暴力などの主題について、しばしば画家自身がモデルと思われる人物をめぐる複雑なオーケストレーションを構成する。

星を頂戴, Natsuko Tanihara, 2020

入江早耶/Saya Irie
1983年生まれ、広島市立大学大学院芸術学研究科博士課程修了。2009年、岡本太郎現代芸術賞入選。2012年、第六回Shiseido egg賞受賞。個展に「見出されたかたち」(2013、東京)、「入江沙耶展・純真遺跡〜愛のラビリンス〜」など多数。「瀬戸内国際芸術祭」をはじめ多くのグループ展に参加。消しゴムでイメージを消してできた消しカスを練り上げて彫像し、立体作品を作るという独特のアプローチを通じて、日常品やありふれたイメージの内包する意味や本質を洗い出し、現代的解釈をにおいて再現する。本展覧会では、コロナ流行中の日常生活を通じて作家が関心を抱くこととなった疫病に関する研究の結果誕生した新作「青面金剛困籠奈ダスト」を発表する。

青面金剛困籠奈ダスト, Saya irie, 2020

加藤有希子×児玉幸子/Yukiko Kato×Sachiko Kodama
加藤有希子は、埼玉大学基盤教育研究センター准教授、作家。表象文化論、近現代美術史、色彩論研究者、単著に『新印象派主義のプラグマティズム』他。「現代社会における<毒>の重要性」研究メンバー。近年児玉幸子のアートについて研究し、目まぐるしく変貌するコロナ禍の世界を背景に、変わらない日常と突如突きつけられる非日常をアンティムに描いた短編小説「雲の路」に、児玉幸子の《雲の路》を登場させた。

児玉幸子は、日本を代表するメディアアーティスト、研究者、電気通信大学准教授。2000年より、磁性流体という独自の媒体を通じて作品を発表してきた。新たなメディアアートの表現は国際的に注目を浴びている。第五回文化庁メディア芸術祭デジタルアートインタラクティブ部門で大賞を受賞(2002)。今回展示予定の「雲の路」は、窓のような枠組みの隙間からのぞく光の色が次々と変化するライトインスタレーションで、児玉のライトアート作品の中でも貴重な作品である。今回は加藤有希子の小説の抜粋と併せて展示する。

雲の路, Sachiko Kodama, 2019

大久保美紀/Miki Okubo
1984年生まれ、京都大学大学院人間環境学研究科で現代アートの研究中、パリ第8大学へ留学し、そこで芸術修士号・博士号を取得。2012年以降パリ第8大学芸術学部講師。専門は美学・芸術学、とりわけ自己表象をする身体への関心から、2014年より医療における身体感覚と芸術的アプローチの可能性に関心を持ち、キュレーション活動を開始する。キュレータとしての展覧会に、「ファルマコン:医療とエコロジーのアートによる芸術的感化」(2017)、「ファルマコン:アート・毒・身体の不協的調和(2018)、「ファルマコン:生命のダイアローグ」(2019)など。医療の文脈におかれた身体のあり方や、薬の副作用やプラセボ効果、ホメオパシーをはじめとする代替医療について関心を持つ。

福島陽子/Yoko Fukushima
1976年生まれ、パリ在住。言語とは異なる多様なコミュニケーションのあり方に惹かれる。東洋医学や代替医療を通じてエネルギーの仕組みに関心を持ち、不可視の世界を読み解く鍵として、量子力学を表現手段の一つとして意識する。工芸、オートクチュール、ダンスなど、領域横断的表現を通じて、多様な素材を用いた繊細な作品によって独特の世界観を表してきた。本展覧会では、生と死・内と外・心と精神・光と闇など、世界を成り立たせる命のメカニズムを物質・非物質的観点から探求した一つの到達点として、三連砂時計《四次元を超えて》、そのコンセプトを描いたドローイング作品に加えて、オブジェとドローイングを中心とした数点を発表する。

Beyond the 4th dimension, Yoko Fukushima, 2020

展覧会ファルマコン 連鎖/反応 (Pharmakon Chain Reaction) プレスリリースvers.1

展覧会ファルマコン 連鎖/反応 (Pharmakon Chain Reaction) プレスリリースvers.1以下からダウンロードいただけます。

展覧会の見どころや出品作家について情報が満載です。
展覧会は12月8日からです。どうぞお楽しみに!
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Pharmakon Chain Reaction 2020/ ファルマコン 連鎖/反応

変貌してしまった世界。恐怖を煽る言葉の増殖。不可視の〈敵〉を遮断すべく、犠牲にされる日常──アートはこの煉獄から脱する道を、私たちに示しうるだろうか?

展覧会 :Pharmakon Chain Reaction (「ファルマコン––連鎖/反応」)

会期:2020年12月8日〜12月25日 月曜休、火水木日12時〜19時、金土12時〜20時
オープニングパーティ:2020年12月8日16時〜20時
シンポジウム:2020年12 月19日14時〜18時
会場:アトリエみつしま 603-8215 京都市北区紫野下門前町44 地下鉄烏丸線「北大路」駅から徒歩15分、市バス「大徳寺前」から徒歩5分
参加作家:エロイーズ・イルベール、入江早耶、大久保美紀、加藤有希子×児玉幸子、フロリアン・ガデン、ジェレミー・セガール、谷原菜摘子、堀園実、福島陽子、古市牧子
キュレータ:大久保美紀
主催:吉岡洋・大久保美紀
共催:アトリエみつしま

展覧会概要
世界は新型コロナウイルス感染による未曾有の状況が続いている。社会に蔓延する感染の不安や恐怖を煽る言説により、ウイルスの存在はあたかも人類にとっての「敵」/「侵入者」/「テロリスト」として認識されている。私たちは、自己防衛のためウイルスを絶対的に遮断しようと他者との接触を徹底的に避け、生活を犠牲にし、日常はすっかり変容した。ソーシャル・ディスタンス、新たな枠組み。煽動された恐怖は連鎖反応を起こし、さらなる恐怖を生む。私たちは見えない敵を前に文字通り震撼し、途方に暮れる。
だが、生命の注目すべき挙動の一つに、細胞の自死として知られるアポトーシスや一部の免疫反応など、それが一見正反対に見える活動を同時に行って平衡を保つという営みがある。そもそも生命体は膜によって自己と外界を区別すると同時に、膜に空いた多数の孔を通じて外界との物質や情報のやり取りするおかげで生存している。ある個体とは、他の生命体と複雑な関係性(あるいは連鎖)の中に存在するのであり、そのことは生存時も死後も変わらない。このような生命の本質を無視し、ウイルスを撲滅すべき敵として完全な衛生を目指す思考は不可能であるばかりか危険ではないだろうか。
本展覧会「ファルマコン:連鎖/反応」では、今日の私たちの身体が置かれた状況―「毒を一方的に排除する志向」―を問題視する。薬と毒という両義的意味を持つ「ファルマコン」の概念は、物事がしばしば持っている両面性(陰と陽、毒と薬、メリットとデメリット、効用と副作用、さまざまな言葉で言い表される「ある側面」と「それと補完的である側面」に着目する。私たちが「毒」とみなす存在を根本的に排除しようとするとき、私たちは世界が相反するものの均衡で成り立ち、それらが単に調和するだけでなく時には複雑に絡み合って全体を形作っているという事実を忘れ、そのことにより自らを生きにくくしている。
ファルマコンの概念に基づく芸術的アプローチを通じて世界を再考することによって、生命をより直感的に捉え直すことができるだろうか。
大久保美紀(キュレータ)

展覧会ファルマコン 連鎖/反応 (Pharmakon Chain Reaction) プレスリリースvers.1以下からダウンロードいただけます。展覧会の見どころや出品作家について情報が満載です。
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