Symposium Pharmakon/シンポジウム「ファルマコン」

オープニングの日でもあった2017年12月1日、京都会場のターミナルキョウトで、「ファルマコン」をめぐるシンポジウムを開催いたしました。スピーカーは、埼玉大学の加藤有希子先生、京都大学の吉岡洋先生、そして参加アーティストのJérémy Segard, florian gadenne, Evor, わたし大久保美紀がモデレータを努めさせていただきました。

Jérémy Segardからは、彼がこれまでアーティストとして行ってきた医療機関との協働の様々な経験についての発表がありました。Jérémy Segardは、バイオロジーとアートを学び、ナント市の美大で芸術修士をおさめ、現在はグラフィスト、アーティスト、建築学校講師という複数のキャスケットで活躍しています。彼の創作において、医療機関とラボラトリーとの協働はその活動の核といっても過言ではありません。Jérémy Segardは自身で立ち上げたLotokoro(ロトコロ:ナイジェリアの原住民族の言葉で「医学」に相当する意味を持つ)というアソシエーションを通じて、先端医療の研究者、臨床医、患者、パブリックそして、アーティストを結ぶ活動を展開しています。とりわけ彼の関心は、アレルギーと感染症をめぐる環境との関わりや身体を取り巻く空間をどのように理解するかにあります。

また、Evorからは自身の創作における視点とファルマコン的なものへのリンク、とくにミクロとマクロの視点の融合によるパースペクティブのずらしの実践、わからないもの、未知なるもの、理解しようとすればするほど離れていってしまうものへポエジーを用いてアクセスする手法など、作品を通じて発表がありました。今回展示している作品の中では、京都会場の地下室の薄暗い空間に浮かび上がる不穏な星空のようなインスタレーション、Nourritures celestes (星座的食糧)の制作のきっかけについて、六ヶ月間に渡って行われたアンジェの病院内アーティストレジデンスの経験、患者や患者家族との交流を通じて、あるいはアーティストとして病院食を食べて病院で眠るという特殊な経験を通じて得られた経験についての発表がなされました。

florian gadenneは特にエコロジーの領域から、マクロとミクロ、異なる種の生命間、異文化、異言語、異大陸を横断するアナロジーを通じて、現代の新しいエコロジーについて考える芸術的アプローチを紹介しました。キノコの菌糸と人間が水運を頼りに気づいた文明の広がりと肺胞、真核細胞の構造と地球の内部構造、原生生物の形状と星雲といった一見偶然に見えるミクロとマクロの視点を横断するアナロジー。しかし、このアナロジーは単なるメタファーでも偶然的インスピレーションでもないことを、自身の一連の作品Cellule babélienne(バベルの塔的細胞)を通じて解説します。cellule babélienneは、動物細胞と植物細胞の細胞構成物から成る「塔」のような構造物です。人間の驕り高ぶった野心に神が怒って人間の言語をばらばらにしてしまう以前、共通言語による調和状態があったというバベルの塔の神話を読み替えて、今日ヒトという種は地球中に繁茂して地球環境を破壊するウイルスのようであり、ヒトはあたかも他の種を隔てる特殊な存在として自らを認識しているが、遺伝子コードを見てみれば、生命を支配するそのコードは人も植物もバクテリアも、同じ言語により記述されているということがわかります。

加藤有希子先生のご講演では、「新印象派のファルマコンーあるいは新しい時代の幕開け」と題し、ホメオパシーとしての色彩療法の発見と、<平衡>や<補完>といった重要概念の理解、相反するものを捉える可能な視点、さらにはファルマコン的ものと幸福の関係について、示唆深いお話をいただきました。加藤先生は、デューク大学美術史表象文化学科で博士号(Ph.D)を取得され、2012年ご研究をまとめた『新印象派のプラグマティズム』を出版されています。とくに、お話しいただいたホメオパシーの色彩療法と補色の考えを応用した幸福な生のための色彩応用については、第三章:新印象派の衛生・医療ーその色彩論との交点を中心に展開されています。

また、最後にお話しいただいたのは京都大学こころの未来センターの吉岡洋先生で、ファルマコン的実践としてご自身の毒ある活動のいくつかをご紹介いただきました。例えば、シンポジウム当日ハンドアウトでお配りいただいたのは「毒娘」というエッセイ(こちらで全文をお読みいただけます)で、松尾惠さんと私自身が関わっている批評誌『有毒女子通信』(Toxic Girls Review)の第8号に掲載されたものです。ホメオパシーとみなせるのかどうか、インドに伝わる昔話だそうで薄めた毒を体内に注入し、耐性ができると毒を強めていくことを繰り返し、体液が猛毒の「毒娘」を作り上げ、これをいわば兵器として利用するような想像力です。また、私たちの大きな関心事項であるアートマーケットやエコノミーサイクルに回収されない芸術活動の可能性について、芸術の社会的応用の模索とその有用性の考察は、「ファルマコン」の大きなテーマの一つでもあり、非常に興味深いお話しがありました。また続くディスカッションでも議論のテーマとなりました。

展覧会「ファルマコン」の輪郭について、少しずつイメージをお持ちいただけたでしょうか。会期は2017年12月23日までです。どうぞご高覧ください。

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